「eスポーツ」というものをご存じでしょうか?
実際に身体を動かすスポーツではなく、ゲーム機やパソコンを用いたバーチャルスポーツにて行う競技です。
端的に言えば「ビデオゲーム」なわけですが、このeスポーツは欧米では20年ほど前から公式競技が行われており、現在は世界各国で多くのユーザーに楽しまれています。
バーチャルということで、正式なスポーツ競技と捉えにくいイメージもありますが、車のレースだって「モータースポーツ」と称されます。
またフランスで保護者の取材を行った際に、eスポーツの話題も登場しましたし、世界基準あるは現代基準で見れば、競技としては立派な存在だと考えられます。
そんなeスポーツですが、なんと福岡市内に学校公認の「部活動」として活動されてるとのこと。
福岡市南区にある福岡市立福翔高等学校のコンピュータ部内に、eスポーツ班が結成され、学校公認で活動を行っているのです。
ということで、早速福翔高校を訪れ、学校長の谷本先生と主幹教諭の手島先生にお話しを伺ってきました。
学校でeスポーツをおこなうことの意味
福翔高校コンピュータ部は16名の部員がおり、メンバー全員がeスポーツを通した活動を行っているとのこと。
民間ご出身の谷本校長は非常に柔軟なアイディアと判断をされる先生で、eスポーツについても、部活動として積極的に採り入れたそうです。
「え?学校でゲームやってもいいんですか?・・・」
最初はコンピュータ部の部員達も戸惑いはあったようですが、結果部員達が目標意識を持つことに繫がります。
それは部員それぞれに相乗効果を生み、コンピュータ部としてプログラミングなどのコンピュータの技術や技能を競う情報処理競技大会の全国大会出場という結果に繫がりました。
「eスポーツには個人の技術だけではなく、チームプレーの大切さや戦略が重要になります。」
谷本校長は、eスポーツを単なるゲームとして捉えるのではなく、生徒達が能動的にチャレンジする環境の一つとして捉えていらっしゃるようです。
今年の6月に開催された文化祭においても、eスポーツがクラスマッチとして採用され、かなりの盛り上がりを見せたそうです。
「今の子ども達にとって、インターネットやゲームは当たり前の存在。彼らに主体性を学ばせるには「ワクワク、ドキドキ」の体験をさせることは大切です。その中でeスポーツは理に適った競技であり、教育として堂々と行いたい。」
と谷本校長は力説されます。
8月3日(土)に開催された全国都道府県対抗eスポーツ選手権(茨城国体)の福岡県代表決定戦において、福翔高校の生徒が少年の部に出場しました。
今回は福翔高校からはコンピュータ部と、なんとリアルの男子/女子サッカー部からもエントリー!
そして福翔高校の男子サッカー部チームが少年の部、福岡県代表に選ばれました!
ここまで行けば凄くないですか?
生徒達にとっては素晴らしい経験だし、なにより夢があることだと思うのです。
福岡の代表として、彼らの活躍に期待したいと思います。
eスポーツはゲーム依存に繫がるか?
一方でゲームに慣れ親しんでいない世代からみると、心配事の一つは「ゲーム依存」です。
ゲーム依存については10年以上前から青少年の問題として採り上げられており、不登校や引きこもりなどの実社会への悪影響も心配されています。
確かに子を持つ親としても気になるところではありますが、その点について主幹教諭の手島先生に伺ってみると、
「高校生は忙しいので、限られた時間でのやりくりを一生懸命に行っています。通常の部活動も、eスポーツの練習も、時間配分を考えている。つまり自分自身をコントロールできていると思います。」
テレビゲームが完全なる娯楽だと捉えると、多くの時間をゲームに費やしてしまったり、ゲームに気持ちを吸い込まれてしまうこと・・・つまり依存状態を引き起こす可能性はあります。
しかしテレビゲームを正式なチーム競技と捉えると、そこに自主性や責任感が生まれ、自制する力を生み出す可能性はあります。
少なくとも福翔高校のeスポーツ活動を追っていると、その意識を強く感じます。
eスポーツ推進の課題と取り組み
確かに生徒達にとって、eスポーツは魅力に溢れたコンテンツだと思いますが、それを学校内で推進することに課題はないのでしょうか。
谷本校長は
「もちろん学校はいろんなことを学ぶ場所ですから、ゲームばっかりやってると見られないようにしないといけませんね。」
と、eスポーツの必然性をアピールしつつも、学校の本分が疎かになることはありません。
eスポーツを通して主体性やコミュニケーションの大切さを学ばせる一方で、時間やルールを自制することはしっかりと指導されているようです。
そして学校の活動に関する保護者の理解も必要になると思います。
子どもに迎合するのではなく、子どもがチャレンジできる機会を与えること。
福翔高校では保護者の理解は得られていると思いますが、学校と生徒、そして保護者が一体となった活動推進を期待したいですね。
学校で完全燃焼させるということ
最後に学校に対する谷本校長の展望を伺いましたが、私が一番心に残っているのは、「学校では生徒達に完全燃焼させてあげたい」という言葉です。
学校には自分自身の夢や目標を持った生徒達が毎日頑張っていますが、「ゲームは学校に関係ないからダメだ」と可能性を断ち切るのではなく、できる限り生徒達の価値観に寄り添うことは大切だと思います。
特にゲームやスマホ、ネット関係では「危ない!ダメ!」という注意ばかりに偏りがちです。
否定的な言葉を並べて、生徒達を萎縮させるよりも、彼らの可能性を信じて様々なチャレンジをさせることが必要だと思います。
取材を終えて
実は私自身、子どもの頃からテレビゲームに慣れ親しんだ世代です。
私が学生の頃はゲームというものは「娯楽」のみであり、学業に不要だという認識が強い時代でもありました。
その時代から比較すると、福翔高校でのeスポーツを通した取り組みは、これまでの常識を覆す画期的だと思いますし、これからの教育に対する新しい指針であると感じました。
テニスの大坂なおみ選手や、ゴルフ全英女子オープンを征した渋野日向子選手など、20歳前後の若い人が世界に名を轟かせる活躍を果たしています。
バーチャルとはいえ、eスポーツもこれからの価値観を変えていくコンテンツですので、若い人が夢を持って取り組み、新たな逸材を生み出す環境として盛り上がって欲しいと思います。
公立の学校において、eスポーツ活動を公認しているケースは全国でも珍しいケースです。
そしてこの取り組みが生徒達が未だ気付いていない夢や可能性を見つけ出すきっかけになるかもしれません。
福翔高校の中から、全国、そして世界で活躍するスターが生まれることを期待したいですね。